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2020年4月 1日

演劇ブックレビュー20200401: 近藤耕人(2018)『演劇とはなにか』彩流社

近藤耕人(2018)『演劇とはなにか』彩流社

本書のテーマはずばりタイトル通り「演劇とはなにか」を考えるものです。この本を読んで演劇とは何かがわかるかといえば、正直微妙かもしれません。しかしそれを考える、あるいは考え直す機会になると思います。

本書は作家・評論家にして戯曲化でもある筆者が、「演劇について書く機会を与えられ、私の経験と記憶のなかから興味あるものを選び、演劇に関心のある方々に問題点をエッセイ風に書き記して、ともに楽しみながら芝居を考えてもら」ために書いたものです(p.8)。このように書いてあるので、この本を読めば芝居が打てるようになるとか、芝居がおもしろくなるとかの即効性・実践性はありませんし、内容も海外の古典演劇を中心にした筆者のエッセイです。ひょっとしたら読んでもわからんわと投げ出す人もいらっしゃるかもしれません。

しかしここで本書をご紹介する意味は、その目次に集約されているといえます。(引用:こちら、本文と少し表記が違います)


舞台の構成
1 役者-ソポクレス、ハムレット、ヘイウッド
2 女優-オフェリア・ポピ
3 演出-アルトー、オニール、ゴドーを待ちながら
4 音-チエホフ、三善晃、堀内茂男
5 衣装-サロメ、山海塾、グリーナウェイ
6 装置-ベケット、豊島重之
7 観客-蜷川幸雄、カズオ・イシグロ、フェードル
8 舞台-ピランデルロ、近代演劇

劇の要素
9 出来事-サッコ、バンゼッティ、利賀村、パリ・オペラ座
10 場-シング、イーストエンド、カムデンタウン・ラウンドハウス
11 言葉-リア王、オレステイア
12 台詞と俳優-ジョイス
14 身体の行動-バーグマン、ファウスト、ゴドー
15 神-ワイルド、折口信夫
16 霊-三島由紀夫
17 私-カントル

演劇の周囲
18 映像-舞台のバーグマン
19 時間-ベケット、太田省吾
20 記憶-イェイツ、ジョイス、ポランスキー、マリアーヌ
21 反復-アガサ・クリスティー
22 政治-カントル、アンソル・フガード

筆者はこのように、舞台の構成、劇の要素、演劇の周囲という3つのカテゴリーに22の構成要素をとりあげ、それぞれについてエッセイを書くことで、演劇とはなにかというテーマにアプローチしようとしているのです。これをみて還元主義的とか恣意的とか思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、よくよく考えるととても便利だと思いませんか。

たとえばお芝居に関わっておられる方でしたら、「舞台の構成」の8要素はおわかりかと思いますが、それらの実践的なノウハウではなく、それらって演劇にとってどういう意味があるのか、というのを少し考えるきっかけを与えてくれるものです。

僕は舞台装置が大好きなので「装置」のところを読んでみると、「舞台の上で演技する役者を超える装置はない。(中略)演劇は音楽会とは違うエンタテインメントの要素があるから、裸の舞台で役者の演技だけで十分に客を楽しませ、堪能させる達者な俳優を揃えることは容易でない。しかしどんなに豪華な、また珍しい装置を設えようと、芝居の基本は役者の声とその演技にある」(pp.49-50)とあります。考えさせられますよね。読んでわかるかどうかはともかく、筆者が知っている具体例が取り上げられているのもいいです。

それに加えて「劇の要素」のカテゴリーでは、より根源的に表現的な要素、演劇的な要素をとりあげています。「言葉」「台詞と俳優」とかならともかく、「場」とか「神」「霊」「私」とかの一文字シリーズは正直なんだろうと思わせますが、劇の要素として提示されると考えるところがあります。たとえば「演劇にとって神とは」と考えると一冊本が書けそうですが、短いエッセイにまとまっていれば、がまんして読んでみようかなと思えますし、考えるきっかけになりますよね。さらに「演劇の周囲」のカテゴリーでは、さらに遠い概念が取り上げられていますが、そういうこともあります。エッセイなんで。

本書は全体を通して、演劇を構成する、あるいは関連する要素をエッセイでとりあげながら考えることを通じて、「演劇とはなにか」という問いに迫ろうとしています。問いの答えがぱっと書いてあるわけではないですが、うまく使えば演じる芝居に深みをもたらす思考を導くことがあるかもしれませんね。

| Category: [ブックレビュー]