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2020年4月 6日

演劇ブックレビュー20200407: 細川展裕(2018)『演劇プロデューサーという仕事:「第三舞台」「劇団☆新感線」はなぜヒットしたのか』小学館

細川展裕(2018)『演劇プロデューサーという仕事:「第三舞台」「劇団☆新感線」はなぜヒットしたのか』小学館

本書はタイトル通り「演劇プロデューサー」という仕事をしている著者の、これまでのキャリアを総括するような内容になっています。正直これを読めば演劇プロデューサーという仕事ができるようになるとは思えないのですが、著者の仕事に対する姿勢というものは学ぶことができると思いました。

著者は「第三舞台」の草創期から関わり、同劇団を小劇場ブームの中で日本屈指の劇団に育て上げ、その後「劇団☆新感線」のマネジメントに携わり、こちらも日本を代表する劇団にしました。両劇団はもちろん有名ですが、ここで注目すべきは、両劇団とも「とても儲かっている」ということです。制作の観点からして、最も重要なことを実現しているわけです。その秘訣を余すところなく披露しています。

とはいえビジネス書のようにわかりやすく、こうすると儲かるよという感じでは書いていません。たいていの読書はそうだと思いますが、大事なのは読むときに「テーマを持って読む」ということです。本書の場合は「劇団を儲かるようにするのに、この人は何をしていたのか?」という問題意識をもつことが重要です。そうでないとただのキャリアを総括したエッセイとして読んでしまうでしょう。

筆者の主張は最初に明確に書いてあります。「演劇は興業です。興業はお金を集めます。お金は雇用を生み出します。社会と演劇はそこで繋がります。芸術的側面からのもろもろは横において、演劇の社会的現実とは、とにもかくにも興業だということです。したがって、演劇プロデューサーの仕事とは、『演劇を通して雇用を生み出すこと』であると信じています」(p.12)。これだけ明確に言い切ることが果たしてできるかといわれると難しいでしょう。そこに著者のこれまでのキャリアがあるといえます。これだけのことを成し遂げているからこそいえることですよね。

この言葉を聞いてどう考えるか。その問題を頭に置いて本書を読むことで、多くの学びが得られるでしょう。しかもかなり楽しみながら。大河ドラマは歴史上の人物がたくさん出てきて、結末もわかっているので、それを頭に置きながら、プロセスを楽しむことができますよね。本書も今なお活躍している演出家、俳優、その他の演劇人が山のように出てきます。当時の息吹を感じながら、また現代に続く演劇界の即席をたどりながら、読むことができるでしょう。

筆者はなぜ成功したのか。一言では言いがたいところはありますが、ただ1ついえるとすれば、失敗を恐れなかったことでしょう。ベンチャービジネスや起業の成功法則と同じです。失敗を恐れず取り組み、成功するまで続ける。当たり前のことに思えますが、結構やってみると難しいのです。興味のある方はこの点も考えつつ読んでみるといいと思います。

いずれにしても読みやすい本ではあるので、ご一読をおすすめします。余談ですが筆者は僕と同じく愛媛県出身で、愛媛や四国を盛り上げる方策を最後に少し述べています。できれば実行してください!

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