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2020年8月31日

演劇ブックレビュー20200831: 岩城京子(2018)『日本演劇現在形 時代を映す作家が語る、演劇的想像力のいま』フィルムアート社

演劇ブックレビュー20200831: 岩城京子(2018)『日本演劇現在形 時代を映す作家が語る、演劇的想像力のいま』フィルムアート社

本書は新進気鋭の演劇作家たちのインタビューを通じて、彼らの考え方や発想の原点、表現したいことなどを知ることができます。インタビューも丁寧で、いいところを引き出しつつ、内容もしっかりしていていい本です。

序論はむちゃくちゃ難しい文章です。難しい文章が苦手な人はあとで読むといいでしょう。先を読む気がなくなりそうです。本書でインタビューに答えている作家の方々は、登場順に、

神里雄大(岡崎藝術座)/村川拓也/木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎)/藤田貴大(マームとジプシー)/西尾佳織(鳥公園)/三浦直之(ロロ)/山本卓卓(範宙遊泳)/市原佐都子(Q)

というみなさんです。彼らの語っていることを要約するのは野暮ですし、内容はわかりやすく話してくれてますので、ご自身で読んでみることをおすすめします。序論のような文章がずっと続くわけではありません。以下では個人的な感想を中心に記しておきたいです。

まず当たり前かもしれませんが、作家の皆さんは自分の表現したいことを本当にしっかり言葉に出来ています。演劇にとって言葉はとても大事だというのはいわなくてもいいことかもしれませんが、だからこそ自分の表現したいこと、質問に対する答えとして言語化できているのに驚きました。芸術表現の言語化は社会との結びつきを構築する上でも大事ですし、そこは美術の足りないところで、音楽のだめなところ(いわされてると感じる)だと思います。「見ている人に何かを感じてもらえればいい」とかいってる場合じゃないですよね。

次にほとんどの人が芸術系の大学を出て、演劇教育を部分的にも受けていることです。結構演劇教育って機能してるんだなと普通に驚きました。インタビューの中でも、こういう人に影響を受けて、卒業制作ではこういう人のバックグラウンドをもって、この人の手法で作成した、みたいなのがでてくるんですよね。上の言語化のところとも一致するのかもしれませんが、この本を読む限り、「お芝居で食べていきたいなら、芸大に行け」はそれなりに合理性があるんだなと思った次第です。どこでもいいわけじゃないかもしれませんが...。

次にみなさん、自分のキャリアについてしっかり振り返って、説明する準備が出来ているということです。普通の社会人ならこんなふうに自分のターニングポイントとか、幼少期の影響が今の自分のこういうところに反映されてるとかいえませんよ。それは裏を返せば自分のキャリアが作風にいかせている、しんどいことや悲しいことも自分の表現の一部にできているということなんだと思います。自分の過去・現在・未来を俯瞰して意味づけることがキャリアであるといいますが、そこの部分もちゃんと話せるようになっているのは大事なことなんですね。

次にこれは少し内容に入っているのですが、「主催者中心主義」みたいなのがわりと否定されているところです。これは作者の意図かのかもしれませんが、古い劇団のイメージって、劇作・演出を手がける代表者が絶対的な権力をもち、他の人がそれに従うみたいなものだったような気がします。もちろんこの中にも作・演出を一手に手がける作家もいるのですが、そうであっても固定のメンバーを決めなかったり、キャラクターの違う他のメンバーと協力して作っていく、みたいな方針をもっていたりします。分散型リーダーシップまではいかないにしても、協調製作みたいな考え方は今は特に大事なんですね。

最後に、自分の作風をみつけていく中で、自分が好きな作品や作家の作品を上演していることが多いということです。劇団内での上演でもいいですし、やってみないとわからない、やってみてはじめてわかるということもありますよね。ぽーんと自分の作風の作品を生み出せるというより、模倣と試行錯誤の末に生まれると考えた方がよさそう。みるだけじゃなくやってみるの、大事ですよね。

もちろん実際に作家のみなさんが話しているのを読む方が学びになりますし、名言もたくさんありました。いっぱい付箋貼りました。ぜひご一読をおすすめします。

Category: [ブックレビュー]

2020年7月 2日

演劇ブックレビュー20200702: 石黒広昭(2018)『街に出る劇場-社会的包摂活動としての演劇と教育』新曜社

演劇ブックレビュー20200702: 石黒広昭(2018)『街に出る劇場-社会的包摂活動としての演劇と教育』新曜社

本書のテーマは、演劇と社会の結びつきです。個人的には演劇は常に社会との関係性を積極的に構築する方がいいんじゃないかと思っているので、本書は大変参考になります。さまざまなカテゴリーの社会との結びつきが事例としてあげられており、特に教育との結びつきは演劇の可能性を示してくれます。

本書の編者は心理学・教育学の研究者ですが、演劇の専門家ではないようです。本書を編んだ理由は、芸術と社会との結びつきに強い関心を持ち、その役割を重要視するためだそうです。演劇を含めたアートは社会における学習の材料・資源であり、相互に影響を与え合う存在といえるでしょう。

本書は4部構成になっています。第1部では地方都市における劇場、ホールの役割です。劇場やホールは演劇活動をハード面・ソフト面から支える重要な場ですが、そこの実践レベルが高くなればなるほど、その街における演劇活動は活発になるといえます。特に第2章の事例は、仕掛け人の方が劇場を社会的包摂活動の場と位置づけ、多様な関係者と協力して活動しています。こういう活動はほんとにありがたいですよね。

第2部は(異質な)他者との出会いがテーマで、待ちにやってくるパフォーマンスアーツがどのような人々のつながりと影響を与えるのかという内容です。普通に暮らしていると出会えない人々、そして彼らの抱えるバックグラウンドは大きな影響を与えますが、やはりパフォーマンスアーツとして出会うことは、人々のコミットメントを生み出し、学びも大きくなりますよね。別にここでの事例である海外のグループだけじゃなくてもだいじょうぶでしょう。

第3部は演劇をもちいた教育の事例です。演劇ワークショップを通じた社会的スキルの獲得や子供達とのふれあいは、特別な機会と学びを生み出す原動力になることがよくわかります。それは教育に携わる方にも同時に大きな学びをもたらします。この相互性が演劇のもつ力ですよね。

第4部は社会課題の解決に演劇が用いられる事例です。「アートの可能性」と題されるように、演劇のもつ可能性はここまであるのだと考えさせられるでしょう。

演劇はそれが学校内であっても外であっても、学校でもたらされる教育機会を超えたものをもたらすことがよくわかります。同時にそれは演劇関係者と社会との結びつきにより、ある種の社会インフラとしての劇団、演劇となることの可能性を示しているといえます。地域にとって重要な存在になれるかは、まず演劇関係者の方から社会にアピールしていくことから始める方が手っ取り早いでしょう。いい本でした。

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2020年4月 6日

演劇ブックレビュー20200407: 細川展裕(2018)『演劇プロデューサーという仕事:「第三舞台」「劇団☆新感線」はなぜヒットしたのか』小学館

細川展裕(2018)『演劇プロデューサーという仕事:「第三舞台」「劇団☆新感線」はなぜヒットしたのか』小学館

本書はタイトル通り「演劇プロデューサー」という仕事をしている著者の、これまでのキャリアを総括するような内容になっています。正直これを読めば演劇プロデューサーという仕事ができるようになるとは思えないのですが、著者の仕事に対する姿勢というものは学ぶことができると思いました。

著者は「第三舞台」の草創期から関わり、同劇団を小劇場ブームの中で日本屈指の劇団に育て上げ、その後「劇団☆新感線」のマネジメントに携わり、こちらも日本を代表する劇団にしました。両劇団はもちろん有名ですが、ここで注目すべきは、両劇団とも「とても儲かっている」ということです。制作の観点からして、最も重要なことを実現しているわけです。その秘訣を余すところなく披露しています。

とはいえビジネス書のようにわかりやすく、こうすると儲かるよという感じでは書いていません。たいていの読書はそうだと思いますが、大事なのは読むときに「テーマを持って読む」ということです。本書の場合は「劇団を儲かるようにするのに、この人は何をしていたのか?」という問題意識をもつことが重要です。そうでないとただのキャリアを総括したエッセイとして読んでしまうでしょう。

筆者の主張は最初に明確に書いてあります。「演劇は興業です。興業はお金を集めます。お金は雇用を生み出します。社会と演劇はそこで繋がります。芸術的側面からのもろもろは横において、演劇の社会的現実とは、とにもかくにも興業だということです。したがって、演劇プロデューサーの仕事とは、『演劇を通して雇用を生み出すこと』であると信じています」(p.12)。これだけ明確に言い切ることが果たしてできるかといわれると難しいでしょう。そこに著者のこれまでのキャリアがあるといえます。これだけのことを成し遂げているからこそいえることですよね。

この言葉を聞いてどう考えるか。その問題を頭に置いて本書を読むことで、多くの学びが得られるでしょう。しかもかなり楽しみながら。大河ドラマは歴史上の人物がたくさん出てきて、結末もわかっているので、それを頭に置きながら、プロセスを楽しむことができますよね。本書も今なお活躍している演出家、俳優、その他の演劇人が山のように出てきます。当時の息吹を感じながら、また現代に続く演劇界の即席をたどりながら、読むことができるでしょう。

筆者はなぜ成功したのか。一言では言いがたいところはありますが、ただ1ついえるとすれば、失敗を恐れなかったことでしょう。ベンチャービジネスや起業の成功法則と同じです。失敗を恐れず取り組み、成功するまで続ける。当たり前のことに思えますが、結構やってみると難しいのです。興味のある方はこの点も考えつつ読んでみるといいと思います。

いずれにしても読みやすい本ではあるので、ご一読をおすすめします。余談ですが筆者は僕と同じく愛媛県出身で、愛媛や四国を盛り上げる方策を最後に少し述べています。できれば実行してください!

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2020年4月 2日

演劇ブックレビュー20200402: 湯山茂徳(編著)、苧阪直行・明和政子・佐藤由香里(共著)(2018)『エンタテインメントの科学』朝日出版社

演劇ブックレビュー20200402: 湯山茂徳(編著)、苧阪直行・明和政子・佐藤由香里(共著)(2018)『エンタテインメントの科学』朝日出版社

本書は演劇を含むエンタテインメントが、なぜ人を楽しませるのか、人の生活にどのように関わっているかを科学的に論じています。人がお芝居をみて楽しむということそのものを考察しています。演劇人にはもちろん、演劇で卒論を書こうとしている人にも役に立つと思います。

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人はエンタテインメントをみてなぜ楽しいと思うのか。意外に難しい問題ですよね。そこまで考えなくてもいいのかもしれませんが、それを心理学中心に科学的に論じているのが本書です。

本書におけるエンタテインメントの定義は、「単なる娯楽以上のものとして、何らかの行事(イベント)を実施し、それに伴って行われる芸術的、芸能的、あるいはスポーツなどのパフォーマンスやプレゼンテーションにより、多くの人々の心に直接訴えかけて感動を与え、共感と同調を呼び起し、希望を与え、生きる喜び、そして未来への夢と、生きていくための力を与えること、すなわち人々に幸福をもたらすこと」(p.10)となっています。演劇もこのエンタテインメントの一部に含まれているので(pp.20-21)、この定義は自分たちの演劇活動を考える上で重要であると考えられるでしょう。

本書において演劇はそれほど特別に取り上げられているわけではありません。ちょっとふれてあるだけです。多種多様なエンタテインメント形態が取り上げられているので、結局エンタテインメントってなんなんというところはあるのですが、特別な形態を超えたエンタテインメント概念を追求していると考えていいでしょう。

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2020年4月 1日

演劇ブックレビュー20200401: 近藤耕人(2018)『演劇とはなにか』彩流社

近藤耕人(2018)『演劇とはなにか』彩流社

本書のテーマはずばりタイトル通り「演劇とはなにか」を考えるものです。この本を読んで演劇とは何かがわかるかといえば、正直微妙かもしれません。しかしそれを考える、あるいは考え直す機会になると思います。

本書は作家・評論家にして戯曲化でもある筆者が、「演劇について書く機会を与えられ、私の経験と記憶のなかから興味あるものを選び、演劇に関心のある方々に問題点をエッセイ風に書き記して、ともに楽しみながら芝居を考えてもら」ために書いたものです(p.8)。このように書いてあるので、この本を読めば芝居が打てるようになるとか、芝居がおもしろくなるとかの即効性・実践性はありませんし、内容も海外の古典演劇を中心にした筆者のエッセイです。ひょっとしたら読んでもわからんわと投げ出す人もいらっしゃるかもしれません。

しかしここで本書をご紹介する意味は、その目次に集約されているといえます。(引用:こちら、本文と少し表記が違います)

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